「おもてなし」の国の外国人労働事情ー労働者を労働者として受け入れる取組みを!

全国一般労働組合東京南部書記長

中島由美子


 政府は、2020 年には、日本を訪れる外国人観光客を年間2000 万人にするという目標を掲げている。メディアは、訪日外国人旅行者数の増加を「おもてなし」という標語で歓迎を示す一方、ワイドショーでは、ドラッグストアで大量に買い物をする中国人観光客を揶揄する。経済的な歓待と、ことさら文化の違いを強調するひんしゅくとが日本社会に入り交じっている。

 作家曽野綾子は、産經新聞紙上に、「移民を受け入れた上で、住居は別にしろ」というアパルトヘイトを許容するコラムを書き、大きな批判を浴びた。批判は当然だ。このような差別記事を掲載することを許すメディアの状況は恐ろしい。だが、彼女が「外国人労働の受け入れ」について賛成であることに注目すれば、異文化を理解することなく、人手不足を使い捨て外国人労働でまかなうという、実に安倍総理のブレーンらしい発想がわかる。移民受け入れとナショナリズムを対立させる構造は、安い労働力を正当化させるプロパガンダである。

♢ ♢ ♢

 オリンピックと復興への人手不足の対策として、建設ならびに造船における外国人労働者の受け入れ拡大が、この4月から実施される。「建設分野での外国人材の活用に係る緊急措置」にもとづき、建設分野の技能実習修了者について、入国資格を就労目的の「特定活動」にし、即戦力として採用する。

 外国人労働者の大量の受け入れが始まるときに、いまだに移民労働の是非を論議しているほど、お花畑な状況ではない。事態は、労働組合が、今すぐ、外国人労働者に対する労働基準法違反、労働災害などの権利侵害、人権侵害を根絶させ、労働者を労働者として受け入れる取組みをしなければならないところにある。

♢ ♢ ♢

「深刻な事態」の具体例を挙げよう。

ひとつは、「国際貢献」「技術の海外移転」という特別な制度でありながら、結局は国内の業界団体の求めに応じた低賃金労働の確保、供給源になっていることが大きな問題とされる技能実習制度だ。

 ある中国人女性技能実習生は、茨城で大葉の結束作業に従事、賃金を時間で割ると一時間あたり300 円にしかならない長時間労働の中、毎日のように、農家の主人に、身体接触や風呂場を覗かれるなどの猥褻行為、性的虐待を受けた。監理団体に訴えたところ、「おとなしく3年間働いていれば、また日本に来ることができる。そうでなければ帰す」などの脅しを受け、性的虐待はなかったことにされた。劣悪な住居に住まわされ、外部との接触は遮断された。人権団体に駆け込んだ実習生に対しては、特に酷い見せしめの扱いを受ける。外国人技能実習生権利ネットワークによれば、これは典型例だそうだ。

♢ ♢ ♢

 つぎに、ケースとしては労災と未払い賃金だが、全国一般労働組合東京南部に寄せられた相談だ。トルコ人労働者は、従業員約100 名の食品工場で働いた。正社員は日本人が17 名、他は非正規労働者で半数以上が多国籍の労働者だった。時給はほぼ最賃、長時間労働が常態だが割増賃金はなし。外国人労働者は2DK のアパートに4~5 人で住み、寮費・光熱費として4万円、作業着代1.5万円、昼食弁当代実費等が給料から控除されている。彼は、工場の他の外国人労働者と2DK のアパートに5人で住んでいたが、全員給料から天引きされているにもかかわらず、電気とガスが料金滞納で止められた。警察に相談したが、助けてくれず絶望。仕事で腰を痛めたのを機に会社を辞めた。

 工場の仕事は、*外国人労働者を集める外国人手配師からあっせんしてもらった。手配師は、企業と労働者から手数料を取った。手配師は「日本では通常最初の月の給料は辞める時に払われることになっている」と言い、入社した最初の月の給料が払われなかった。入社2ヶ月目、寮費など2か月分引かれると、給料は手許に4万円だけ残った。お金がないので、逃げ出したくても逃げ出せなかった。

♢ ♢ ♢

 さらに、もう一つ。「日本再興戦略2014」に盛り込まれた「外国人家事支援人材の活用」だ。地域限定の規制緩和である国家戦略特区の枠組みで試行的に始めるとされ、「外国人家事支援人材の活用」に名乗りを上げている自治体に大阪府と神奈川県がある。

女性の活躍推進法や女性労働との絡みで語られることの多い問題だが、私が驚いたのは、労働組合のかなりの人たちが「安い賃金で誰がお手伝いさんを雇えるというのか」などと、富裕層との格差問題として議論していたことだ。「家事労働」というだけで、働く人のことなど少しも考えないところが、根深いこの国の女性差別を表している、という問題はさておき、いったい、この「外国人家事支援人材」は、どのような立場で、どのような仕事をするのだろう。

 厚生労働省は、従来の外国大使、領事館などに帯同し、家庭で家事労働を担う労働者と違い、「家事支援サービス企業」に雇用される労働者として、労働法が適用されると回答した。派遣法によって、個人宅に派遣される場合もあり得るが、請負でも派遣でも適用法に正しければOK というのが彼らの立場だ。内閣府地域活性化推進室は、サービス内容は炊事、洗濯など家事を想定しているという。しかし、家庭という閉鎖的な場所での労働だ。上述の技能実習生のように、何があるかわからない。また、家事サービス代行業界団体は、渡航費、日本語研修等の受け入れコストがかかるので、「国には最低賃金を下回る賃金も認めてほしい」と要望する。論外な要望も、国家戦略特区の制度設計の根幹が規制緩和にあるからこんなことが言えるわけで、技能実習制度で起されている問題が繰り返されるおそれは充分にある。

 家事労働者の定義も家事労働とは何を指すのかさえも曖昧なまま、業界の顧客ニーズは、シングル中年男性や高齢者家庭などに拡大している。拙速に受け入れるのではなく、まず、「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約」(ILO189 号)の批准が不可欠だ。これは移住労働者を支援する団体や労働組合、幅広い女性運動の枠組みで喫緊に取組む課題である。日本では、個人家庭で指揮命令を受けて家事労働をする労基法適用の家事労働者を、まだだれも経験していないばかりか、これまでおもに女性が無償で担わされてきた家事労働が有償労働になろうとしているのだから、もっと大きな議論になっていいはずなのだ。



*この手配師のエピソードは、労働者事情と移民問題について描いたケン・ローチ監督映画「この自由な世界で(It's a Free World)」(英2007) さながらである。