「黒」を「黒だ」といえる運動を

伊藤彰信(労運研共同代表)

 

 私は、年1回、ある大学で労働組合を考える特別講義を受け持っている。もう6年になる。はじめは、全港湾の産別運動の話をしたのだが、労働運動を経験している人にとっても産別運動は理解しにくい話なのに、そもそも労働組合についてよくわかっていない人には、まったく理解できない話であったに違いない。そこで、労働組合とは何か、なぜ必要なのかという話を、職業として労働運動を行ってきたものとして話すようにしている。それでも、学生がどこまで理解してくれているか心配だ。

教室は500人ほどの学生でいっぱいだった。今年は、土屋トカチさんの監督作品「ブラックバイトに負けない!」を上映してみた。この作品は、アジア太平洋資料センターが制作したもので、昨年末のレイバーフェスタで上映とバイト学生とのトークショーが行われた。作品は14問のクイズ形式である。上映時間は38分なので、講義では10分だけ上映して、あとはクイズをしてみた。思いのほか正解率は高かった。

以前は「自己責任」が風靡し「こんな辛い仕事をしなくてはならないのは、落ちこぼれの自分だから仕方がない」と思っている若者が多かった。最近は、「ブラック企業」という言葉が抵抗なく使われるように、「この会社、ブラックじゃないの」と就活でもブラック企業かどうか見極めようとする学生の意識は高くなってきている。

さて、講義では労働法の知識の関する正解率が高かったので、「ブラックを見た場合にどうしている」と聞いてみると、「労働組合に相談する」と答える人はほとんどいない。「お前の代わりはいくらでもいる」という脅しに打つすべを持っていないからである。泣き寝入りするか,辞めてしまうかが多い。労働条件や職場環境を改善できるのは労働組合だという話をするのだが、「黒」を「黒だ」といえる一歩を踏み出す勇気を持てる条件は何なのだろうか。

 私が考えている「非正規労働者のためのユニオンキャンペーン」(仮称)とは、一歩を踏み出す勇気を応援できないかという思いである。偽装請負や派遣労働が社会問題になった2007年に「ユニオンYesキャンペーン」をやったことがある。レイバーネットを軸に、ナショナルセンターの違いを超えてユニオンが集まったことは意義あることだったが、非正規労働者の決起を促し、組織化することは、各ユニオンの仕事であり、裁判闘争が闘われた。そして、リ-マンショック、年越し派遣村と続き、裁判闘争も終焉した。

 労働組合は、組合員の利益のために活動する組織だから、労働組合に加入してもらわないと、あなたを助けることはできない、といってオルグをする。組織に加入してはじめて労働組合の活動があるのである。

労働組合の組織拡大方針をみると、必ず組合員の減少が書かれており、組織拡大が必要だと結論づけられている。組合員に危機意識を植付けるには良いが、オルグられる未組織労働者(このことばも私は嫌いなのだが)にとっては迷惑な話だ。

そもそも労働組合は常に組織拡大を追求する自己増殖組織である。なぜなら、組合員はいずれ労働現場を離れ組合員でなくなっていくのであり、要求を実現するためには多くの労働者の結集と団結が必要だからである。市場独占を果たすことによって、賃金、労働条件を高く売りつけることができるからである。ユニオンショップ協定を結ぶと、新規採用があり、会社が存続する限り労働組合は存続できるという企業内意識に安住してしまう欠点がある。

問題は、労働組合の都合で労働者を見るのではなく、労働者の目線で、労働者が頼れる、労働者の役に立つ労働組合になっているか、そのような運動をしているかである。労働組合は、組合員の利益のために活動するのは当然だとしても、それにとどまってはいけない。労働者の利益のために活動すべき組織である。そして労働者が働くすべての現場に労働組合がなければ、労働者の利益は守れないのである。「非正規労働者のためのユニオンキャンペーン」(仮称)は、そんな労働運動を推進するためのキャンペーンにしたいものである。