総選挙にあたって安倍政権の暴走を阻止し、退陣に追い込もう

 伊藤彰信(労運研共同代表)


 安倍首相は衆議院を解散した。12月2日公示、12月14日投票の日程で選挙戦がたたかわれる。


 10月31日に黒田日銀総裁が追加の金融緩和を発表した。日銀は長期国債を今まで50兆円買い入れたが、買い入れ枠を一気に年間80兆円に拡大した。株価が高騰し、円安が進行した。誰もが、このような景気回復のカンフル剤を投入した安倍政権は消費税率引き上げを行うのだろうと思った。「今後の経済財政動向等についての点検会議」でも多くの識者が来年10月から消費税率を10%に引き上げることに賛成した。連合の古賀会長もそのひとりである。このように消費税率引き上げの環境を整えたにも拘らず、安倍首相は11月18日、来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを1年半先延ばしして2017年4月から実施する決断をした。11月17日に発表された7月~9月期の国内総生産(GDP)がマイナス1.6%と予想をはるかに下回るものだったからである。これは、アベノミクスの破綻を示す何者でもない。


 安倍首相は、今回の総選挙をアベノミクスの成果を問う選挙と位置づけている。「国民生活に密接に関わる消費税について、重大な政策変更をした以上、国民の信を問う」というのである。「消費税を引き上げることによって景気が腰折れてしまえば、税率を上げても税収が増えないのでは元も子もない。だから、消費税率引き上げは延期する。しかし、アベノミクスは確実に成果を上げている。雇用は100万人以上増え、有効求人倍率は22年ぶりの高水準であり、賃金が平均2%以上アップした。成長戦略をさらに力強く実施し、消費税率引き上げに向けた環境を整えることができる」と安倍首相はいう。


 2年前に比して雇用は123万人増えたが、増えたのは非正規労働者であり、正社員は22万人減少している。今年9月の有効求人倍率は1.09倍であるが、正社員の有効求人倍率は0.67倍でしかない。この春賃金が2%以上アップしたといっているが、それは一部大企業労働者の名目賃金のことである。安倍首相は働く人の6割に賃上げがあったという。確かに経済産業省の調査によれば、大企業の93%、中小企業の65%で賃上げが実施された。しかし、それは正社員のことであり、労働者の4割を占める非正規労働者は調査対象になっていない。今年9月の実質賃金指数は、対前年比マイナス3.0%であり、15カ月間マイナスが続いている。賃上げが、消費税率引き上げや円安による物価上昇に追い付いていないのである。さらに社会保障費の負担増により、国民の生活は冷え切っている。総務省の家計調査報告によると、9月の勤労者世帯の消費支出は303、614円、前年同月比マイナス7.3%で、マイナスは6カ月間連続している。


 GDPが年率マイナス1.6%である原因は、個人消費が堅調でないことである。アベノミクスは、株価を引き上げ、大企業、富裕層に利益をもたらすための経済政策である。 いずれ中小企業、非正規労働者にも波及していくと思うのは間違えである。そもそもアベノミクスは、中小企業、非正規労働者との格差を拡大し、貧困を増大させるものである。消費税の税収は、富裕層の課税率引き下げや法人税の引き下げ分を穴埋めするために使われてきた。消費税率を引き上げなくても、税収を確保する手段はいくらでもある。

総選挙で消費税率引き上げ延期の是非を問うのではなく、勤労国民の生活と福祉の向上を図り、実体経済を着実に回復させていくために、消費税率の引き上げをやめさせ、アベノミクスをやめさせることこそ総選挙での労働者の使命である。


「選挙の争点は政権が決める」と述べたのは菅官房長官である。消費税率の引き上げについては景気条項があるので国会の判断で先延ばしできる。一方で、安倍政権は閣議決定で憲法の解釈を勝手に変え、集団的自衛権の行使容認を行った。日本が他国の戦争に介入できるようにすることは、国民の信を問う重大事項ではないのか。一旦事故が起きれば取り返すことができない被害をもたらす原発の再稼働、原発推進のエネルギー政策についても信を問うべき課題である。この12月10日から施行される特定秘密保護法も、国民の知る権利、言論の自由を弾圧する法律と多くの国民が反対した。沖縄の辺野古新基地建設についても沖縄県民はノーを突きつけた。2年前の総選挙で自民党はTPPへの参加に反対していたが、公約を破り交渉を続けている。労働分野においては、一時的・臨時的な働き方である派遣労働者を恒常的に使用できるようにし、長時間働いても賃金は変わらない制度を導入しようとしているのである。このような安倍政権の政策と横柄なそして独善的な政治をやめさせることも今回の総選挙の重要な課題である。


 自民党が発表した公約には、憲法改正原案を国会に提出すると書いてある。安倍首相の狙いは、選挙で信任を受けたとして、戦争のできる国づくり、戦後レジュームからの脱却をはかるために、天皇を元首とし、国防軍を創設し、人権を制限する自民党憲法草案を成立させることであり、そのために政権をなんとしても維持することである。この安倍の野望を打ち砕くことこそ、労働者の任務である。


 解散直後の世論調査では、安倍政権支持率が39%に下がり、不支持率が40%と上回った。自民党は2年前、比例区27.6%の得票率であるにも拘らず、61%の294議席を獲得した。政権の基盤は磐石ではない。今こそ、アベノミクスを中止させ、安倍政権の暴走を止める絶好のチャンスである。安倍政権を退陣に追い込むために、労働者の力を結集して総選挙闘争をたたかおう。