激動する世界と安倍自公政権に労働組合はどう立ち向かうのか

                        中岡基明(共同代表)

 

 2016 年の通常国会が開会した。1 月4 日開会というという異例の早さである。当日、東京証券取引所の2016 年度の大発会は582 円安となり、その後も株価は下落を続け、ついには戦後始めて株価下落が5 連続日続き、18000 円を大きく割り込んだ。

 昨年度末12 月28 日、年金基金など鯨をつぎ込んでようやく19000 円の株価をキープし、アベノミクスが着実に進んでいることを演出したばかりである。株価の乱高下は今更驚くことではないかもしれない。実体経済とかけ離れ、金融資本主義ともカジノ資本主義とも呼ばれカラ売買によって経済回復が進んでいるかのように装われてきた。
 ところが、1 月4 日にはサウジアラビアとイランの国交断絶が報じられ、中東イスラム圏の緊張が伝えられた。そして1 月6 日には北朝鮮が核実験を実施したことを発表した。また、IS(イスラム国)によるテロ攻撃は欧州から北アフリカにも拡大し、加えて世界の国々の異常気象による大規模な被害も伝えられている。日本でも異常に暖かい正月が続いている。
 原油価格の下落も止まらず、中国経済の好調さによって支えられてきた世界経済の行く末は全く見通しのつかず、大きな暗雲が立ちこめている。今後の世界の政治経済についてしっかり注視すると共に、今後の闘いを進めるために適格な判断が求められている。


 通常国会が開会し、野党との論戦が始まった。一人、アベノミクスの成果を自賛し続けてきた安倍首相であるが、すでに日銀の大規模金融緩和を支えてきた年金基金などの投入枠も枯渇し、年初の株安は今後の年金財源に大きな痛手を与えたことになる。円安株高によって潤ってきた大企業も企業内に利益を貯め込むばかりで、中小企業、労働者の生活困窮という窮状は全く解決できないままとなっている。昨年11 月の実質賃金は前年同月比0.4% 減となり、国内消費は依然冷込むばかりで「景気の好循環」とはほど遠い状況が続いている。アベノミクスの破綻は最早誰の目にも明らかである。政府は大企業の業績確保による見せかけの景気回復を演出し続けることしかない。
 安倍首相は違憲である戦争法の強行採決に対する労働者市民の批判をかわすために新たに「新三本の矢」、「一億総活躍」を掲げ、景気の好循環を促し、再び経済成長を柱による支持率の回復をもたらそうとしている。しかし、その具体的な中期政策は明確なものはなく、参議院選挙対策が明らかな中高年者への現金ばらまきと、消費税10%引き上げをまえにして軽減税率の導入という、あたかも弱者へ目配りを行っているかのごとく装うばかりである。そして安倍首相は「富国強兵」へ思いを着実に実現するために、原発を再稼働させ、武器輸出や原発輸出に日本資本の将来を託そうとしているのである。そして農業・漁業、医療保険制度など安定構造を破壊してでも、日本社会を巨大外国資本にTPP を通じて売り渡す見返りとして獲得しようというのである。安倍政権と財界・経団連はかつてないほど一体化させている。

 

 安倍政治のもう一つの特徴である「強国」日本の再建はますます独裁的な手法を強めている。特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認を閣議で決定し、2015 年にはついに戦争する国への法整備として安保関連法( 戦争法)を強行成立させた。この法律は多くの憲法学者が憲法違反と指摘し、労働者市民・学者・若者・母親が連日、反対行動に立ち上がり、世論の多数が反対、乃至は議論が不十分であるとする中で可決成立を強行したのである。そして、沖縄普天間基地の代替として辺野古新基地建設のためには翁長県知事を被告に据えて、辺野古の海・大浦湾の埋立承認取り消しに対抗するため、行政代執行裁判を提訴したのである。

 こうした一連の政治決定過程では自民党内の反対勢力を封殺し、メディアには恫喝・介入を行い、草の根右翼を動員して、自民公明与党が国会議席の過半数を占める多数派として数の論理を全面化させて強行採決を繰り返してきた。異なる意見の封殺とポピュリズム・大衆動員による独裁政治に他ならないのである。上からのクーデターとも例えられ、戦後70 年を迎えた日本社会の根底的な作り替え、即ち、日本軍国主義と侵略戦争を反省し、平和と民主主義、産業の育成によって日本を復興させるという戦後レジームを自虐史観ととらえて歴史の修正を目論見ながら、アジアの大国日本、世界経済における「ジャパンアズナンバーワン」の復権を妄想する「富国強兵」政策の全面化に他ならない。
 こうした安倍自公政権と表裏を一つにする財界は労働者保護政策やセーフティーネットである社会保障制度も破壊の対象として労働者市民に襲いかかっている。昨年には労働者派遣法を改悪して派遣労働をより使い勝手の良い制度の変え、派遣労働者は生涯を低賃金・不安雇用に縛り付けられる恐れが拡大した。すでに非正規労働者は全労働者の40% を超え、女性では60% にもなっている状況は益々広がっていくことは確実である。そして今後、8 労働時間制の破壊と過労死を拡げる長時間労働を合法化する労働基準法改悪、使用者による解雇自由を促す金銭解決方式の導入が急がれている。そして戦争できる国へと転換させる不可欠の要請として「なにも考えない」、「愛国心をすり込む」教育の強化、「なにも知らさない」とするメディアの国家統制と大衆の操作である。


 世界の政治的経済的安定は破壊され、新自由主義は行き詰まり資本主義の終焉が議論の対象とされ始めているように、世界の経済政治が大きく変わろうとしている。そうした渦中、安倍政権の手よって日本社会の根底的な破壊と転換がなされようとしている。この安倍政権に対してどう立ち向かうのか、労働組合はかつてなく正面から問われることとなっている。戦後70 年とは戦後民主主義と労働者市民の生活向上に欠かせない政治勢力として存在してきた労働組合にとってもまた大きな転換点に立っていることは確かであろう。特に、1989 年、総評が解体し労戦再編が行われて以降、30 年にもなろうとしている現在、まさに安倍政権の政策と真正面からどのような闘いを組んできたのか問われているのである。2015 年労働者市民の闘いは全国や国会を取り囲んで激しく闘われた。そのあつい息吹は続き、7 月参議院選挙勝利をテコに戦争法廃止を求める運動に引き継がれようとしている。60 年安保闘争になぞらえて2015 年安保闘争ともいわれた。改めて労働組合の役割が問われている。それは政治領域ばかりではない。
 2016 年は日本労働運動の検証を通じた新たな闘いが創出できるかと問われている。

 

2015 年をあらたな運動の出発点に!

                     三澤昌樹( 労運研事務局次長)

 

 この数年「こんな状況になるとは( 若い頃)考えもしなかった。」そんな思いを抱き続けているのは自分だけではないだろう。年の瀬を迎えても以前のように1 年が終わったなという気分がしないのは、「この流れになんとかとどめを刺したい。」そんな思いが、日々行われる安倍政権による横暴によって切れ目なく湧き上がるからなのだと思う。とはいえ、闘いを振り返り次の一歩を踏み出す糧にすることは常にしなければならない。
 今年を振り返ると、運動の節目として大きな意味を持つものとして、横浜臨港パークで開催された憲法集会をあげたい。超党派の市民団体や労組が参加する5.3 憲法集会実行委員会と平和フォーラムが主催する憲法集会がひとつになり開催されたこの集会は3 万人を超える参加者で大きな成功をかちとれた。この成功は安倍政権の進める憲法破壊、原発再稼働、新自由主義路線推進の暴走に対する労働者、市民の危機感と、3・1 1 以降の脱原発での共同闘争、13 年末の秘密保護法制定に対する広範な反対運動、労働法制の改悪に対する「雇用共同アクション」、JAL 不当解雇撤回闘争などにおける労働団体における共同闘争、そしてオール沖縄での辺野古基地建設に反対する各種選挙での勝利などの積み重ねとがあって実現できたと言える。その意味で多くの共同闘争の流れが形成される中で、それがひとつに束ねられる契機となったのがこの憲法集 会だったと言える。5 月の青空はその門出を祝っているようであった。
 安倍政権による戦後体制の否定は、2015 年、労働者の働き方の基本を根本から覆す労働者派遣法改悪と、アメリカの戦争に直接加わる集団的自衛権を認める安全保障法制( 戦争法)として我々につきつけられた。労働者派遣法改悪は、派遣職員の常用代替を認めるもので、雇用期限に定めのない常用労働者( 正規労働者)を職場から駆逐し、モノを言えぬ派遣労働者( 非正規労働者)に置き換えるという戦後労働者保護政策が柱とした労働者の働き方を根底から覆すものである。戦争法は、多国籍資本の権益を守るためには、人々の血を流すことも厭わない、そしてそれを実現するためには、民主主義否定も憲法無視も厭わない安倍政権の本質をあからさまに示した。
 こうした安倍政権による憲法否定、日本を戦争国家にする矢継ぎ早の動きは、広範な人々を不安に駆り立てた。若者( SEALDs)、女性( ママの会)、知識人( 学者の会)、法律家などのこれまでにない立ち上がりを促し、眠っていた60 年、70 年安保世代をも街頭に駆り立てた。国会前は8 ・30 の集会で12 万人集まったのをはじめ9 月19 日の強行採決まで連日連夜大勢の市民、労働者で埋め尽くされた。今回の人々の立ち上がりは首都一極でなく多くの地域での集会開催、400 を超える地方議会での意見書・決議の採択に見られるように全国的な盛り上がりを見せた。自分がいる東京の練馬区でのローカルな「戦争法NO!練馬集会」にも2 回にわたり各々1500 名を超える区民が参加した。こうした運動の盛り上がりが、腰の座らない民主党をはじめとした国会議員を動かし参議院での院内の闘争を支えた。また院内のがんばりが国会前の運動を更に励ます好循環をつくり出していった。戦争法は成立させられたが、戦争法廃止へ「総がかり行動」を継続し、直近の参議院選挙での野党結集と勝利で戦争法廃止と安倍政権打倒しなければならない。
 現在総がかり行動は、戦争法廃止への取り組みとして「戦争法廃止を求める2000 万署名」を呼びかけている。この署名運動を成功させるには「日本会議」の動向を押さえておかなければならない。「日本会議」は安倍政権の閣僚24 名中21 名が所属し安倍政権を動かしていると言える極右政治団体である。その「日本会議」は、2014 年10 月に櫻井よし子を代表にし「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を組織した。そして、「美しい日本の憲法をつくる1000 万署名」「地方議会での憲法改正の早期実施を求める意見書を上げる活動」を進めている。この運動で2016 年7 月の参院選挙を勝利し、衆参3 分の2 の勢力を確保するとともに、改憲へ一気に進める戦略を立てている。またこの1000 万署名を改憲の国民投票において過半数票と考える3000 万票を確保するための組織化と位置づけている。彼らは当初2016 年7 月参議院選挙時に併せて改憲の国民投票」を行うことを目標に運動を進めていた。戦争法反対の運動の盛り上がりでその予定は遅れているが、すでに400 万を超える署名を集めているという。この動きを侮ってはいけない。
 こうした草の根運動を敵は本気ですすめており、「2000 万署名」をこちらも本気になって集めなければならない。そして本気になって集めれば集めるだけ彼らのこうした動きと激突し、どちらが組織するかの攻防が繰り広げられることが想定される。そこではひとりひとりの奪い合いで署名を集めていく思想性が問われるということを肝に銘じ、運動を組織しなければならない。
 この夏の一連の闘いは一部では「15 年安保闘争」とも言われている。しかし労働運動に関わる立場の人からは、60 年安保に比べ労働組合が運動の中心にいないことが指摘される。連合本体が姿を現さないだけでなく、それなりに頑張っている組合でも取り組みが十分だったかを振り返る必要があるだろう。また働く者の4 割に達した非正規をこうした運動に招き入れられないでいる弱さを早急に克服しなければならない。彼らを「美しい日本の憲法をつくる1000 万署名」に絡め取られてしまうことがないように真剣に考えなければならない。

 

新しい労働者階級のための新しい労働運動


伊藤彰信(労運研共同代表)

 

社会運動ユニオニズム研究会でケント・ウォンさんの講演を聞きました。その講演タイトルが「新しい労働者階級のための新しい労働運動」でした。

ケント・ウォンさんは、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)レイバーセンター所長です。レイバーセンターは、組合の組織化対象の調査や組織化戦略立案、組合役員やオルグの教育、移民コミュニティや社会運動で大きな役割を果たしてきました。

アメリカの労働運動は、世界恐慌後の1930年代に高揚し、労働組合の組織率は35%に達しましたが、現在では11%、民間部門では6%です。アメリカ経済は、工業経済からサービス経済に転換し、多くの製造業が海外に移転してしまいました。雇用も変化しました。終身のフルタイム雇用が減り、パートで不安定な臨時の仕事が増えています。労働力構成は、女性、有色人種、移民が増加しています。これが「新しい労働者階級」の説明だと思います。

2006年には、アメリカで数百万人の労働者がメーデーのデモ行進を行いました。ロサンゼルスでは100万人が参加した国内最大のデモでした。移民労働者によって主導されたデモでした。多数の労働組合は参加しませんでした。私は、全港湾の友誼組合であるアメリカ西海岸のILWU(国際港湾倉庫労働組合)がメーデーにストを行うという連絡を受け、連帯のメッセージを送ったことを思い出しました。アメリカはメーデーの発祥地ですが、メーデーは行わず、9月第二月曜日のレイバーデーで集会・デモを行っています。5月1日にメーデーの集会を行うのは、いわゆる社会主義者、共産主義者などの集団とみられています。

歴史的に見ても、アフリカから強制連行された黒人の奴隷制がありましたが、ヨーロッパ移民から、アジア移民、ラテンアメリカ移民へと変化しています。アメリカでメーデーを行ったのは移民労働者だったとウォンさんは話していました。ロサンゼルスでは、1990年のビル清掃労働者のたたかい、1999年の在宅介護労働者のたたかい、最近では洗車労働者のたたかいと、無権利、低賃金労働で働いていた労働者の組織化と闘争がありました。労働組合も、白人、男性中心から、有色人種、女性が中心となる組織が生まれています。これが「新しい労働運動」の紹介だと思います。

この「新しい労働運動」は、組合員の利益を追求する今までの「ビジネスユニオニズム」と異なって、社会正義を実現することを通じて労働者全体の利益を追求するいわゆる「社会運動ユニオニズム」といわれるものです。労働者たちが団結して、公正な賃金と労働条件、移民の権利、相互扶助と支援を求める運動です。1960年代の人種間の平等を求める公民権運動、2010年のウォール街占拠、1%と99%の経済的不平等を告発し、経済的公正を求めるキャンペーンを展開してきました。そして「15ドルのためにたたかう」という最低賃金を15ドルに引き上げるキャンペーンを展開し、いくつかの都市で15ドルに引き上げることに成功しています。ウォンさんは「アメリカの労働運動は、成功も失敗もあるかもしれないが、新しい労働者階級の利益を代表してたたかう新しい労働者階級のための新しい労働運動を建設することが必要だ」と結びました。

 

 日本でも、労働組合の組織率低下、製造業からサービス業への産業構造の転換、製造業の海外進出による産業の空洞化、格差の拡大、非正規労働者の増大、労働者の権利の排除などのアメリカと同様の状況にあります。日本の労働者階級は、中間層が二極分解し、底辺を非正規労働者が形成しています。働いても貧困であるワーキングプアが問題になっています。この層を「新しい労働者階級」というべきでしょう。

日本の労働組合法では2人以上で労働組合を結成できるので、労働組合を結成することは容易です。アメリカの場合は労働組合結成について従業員の過半数の賛成を得なければならないので容易ではありません。過半数の支持を得るために、ビジネスユニオニズムでは、医療、年金など共催制度の充実を宣伝して組合員の獲得をします。社会運動ユニオニズムでは、賃金引き上げが人として生きていくための当然の権利だと人間の平等、経済的公正を社会に訴え、キャンペーンを展開しながら、地道なオルグをおこない労働者を組織し、組合を結成していきます。日本の場合、ユニオンに駆け込めば個別ケースでの救済はある程度可能ですが、同じ境遇にある労働者全体に波及する効果や救済から労働組合結成に結び付くには、かなりの道のりがあります。

このように、労働者の団結をつくりあげていくには、日本においてもアメリカにおいても工夫と努力が必要ですが、日本においては、キャンペーン的な労働運動についての経験がないので、マスコミ受けすれば「成功」と誤解している傾向もあります。

日本における「新しい労働運動」をどのようにつくりあげていけばよいでしょうか。若い学生がウォンさんに「キャンペーン運動の中で主体はどのように形成されてきたのか」と核心に迫る質問していました。ウォンさんの答えは「正しいことをしているという希望を見せることであり、成功の実績をつくることである」というものでした。もちろん、ウォンさんは、移民労働者、若い労働者、女性労働者の活動家養成の活動を永年おこなっているので、ウォンさんの答えは、それらをベースにキャンペーン運動を担い、労働者に訴え、実践するときの心得でもあると思います。

 

労運研では、この間、「非正規労働者のためのユニオンキャンペーン(仮称)」について、どのように展開していくか検討をしてきました。非正規労働者、正規労働者、民間労働者、公務労働者が一緒になって社会的なキャンペーンを展開できないだろうか。その場合の主体形成は、共通の理念と統一された要求は、と研究課題は少なくありません。

それでも、このようなキャンペーンを行うべきだという状況は一層、現実味を帯びてきたと思います。安倍政権は、インフレ政策を続け、経済界に賃上げを要請しています。低賃金の職場では労働力不足が言われ、売り手市場になろうとしています。国際的に見ても多くの国で最低賃金の引き上げが行われています。そして何よりも、安保法制反対闘争で、正義と公正を求める若い人が登場しました。

今年は「就職氷河期」から20年といわれています。その間、若者は、「就職できて幸せ」、「就職できずに、非正規労働を続けているのは、私の責任」と思うようになってしまいました。そのような若者が、もう40歳になろうとしています。いつまでも親のスネをかじっているわけにはいきません。親も年金暮らしになり、親が死ねば、一家崩壊という状況です。正社員労働組合の組合員の子どもたちも、就職先は非正規労働という時代になってしまいました。せっかく大学は出たけれど、非正規労働者では多額の奨学金を自分一人では返せない状況です。ある一面、職場に非正規労働者を導入することを黙認して、何とか正規労働者の賃金を維持しようとしてきた正社員意識の労働運動のツケが、自分の子どもたちに回ってきたのです。

「新しい労働運動」の課題は沢山ありますが、まずは若い人が自己責任意識を捨てて、「生きさせろ」「生活できる賃金をよこせ」と声を上げることです。そして、声を上げれば、職場から追い出される状況を防ぎ、声を上げることができる環境を整えることです。労働組合は、そのような労働者を支える砦です。

「新しい労働運動」のために、非正規労働者とともにたたかう労働運動を職場からつくるよう、皆さんと一緒に努力したいと思います。


差別・格差をなくし、最賃闘争を共同闘争として展開しよう


                                 伊藤彰信(労運研共同代表)


  安保法制を成立させた安倍首相は、9月24日、自民党総裁に再選(任期は2018年9月まで)されたことを受けて記者会見を行い、今後は経済優先の姿勢を打ち出した。アベノミクス第2ステージという向う3年間の政策目標を掲げ、来年の参議院選挙で勝利し、次は憲法改正を狙っている。もう国民は騙されない。安保法制を廃案にするたたかいだけでなく、アベノミクスと対決する職場のたたかいを強化して、安倍政権を打倒する運動が求められている。

まず、アベノミクスは、貧困を増大させ、格差を拡大させる政策であることをもっと強く労働者に訴えることが必要である。労働組合の春闘総括などを読むと「アベノミクスの恩恵は、いまだ、中小企業労働者や非正規労働者に届いていません」などと書いている。その淡い期待が安倍政権の暴走を許した元凶であることを反省しなければならない。幻想を捨てて、アベノミクスは、中小企業労働者や非正規労働者ための政策ではなく、大企業のための政策であり、トリクルダウンはありえないことをきっぱり言い切ることである。

 この間、日本の労働者の賃金が低下している最大の原因は、正規労働者が減り、非正規労働者が増えたからである。国際競争力強化を謳い文句に、規制緩和・構造改革と称してリストラ、賃下げを行い、円高、デフレを招来した。2008年のリーマンショックによって、このような新自由主義路線は破綻した。格差の拡大と貧困の増大に反発した国民の審判をうけ、2009年に自民党政権に代わって民主党政権が実現した。

 2006年の第1次安倍政権は、非正規労働者の増大が政権を揺るがす危機要因になると認識して、「再チャレンジ」を唱え、敗者復活戦により「敗け組」でも「勝ち組」になれる希望を与えた。公務員や正社員は恵まれた労働者と批判し、その利権をはく奪すれば、競争のチャンスは広がると訴えた。残業代をなくす労基法改正を目論む一方、最低賃金の引き上げ、パート法改正など、自民党が非正規労働者を取り込む作戦を立てた。

 2012年12月に再び政権の座についた安倍首相は、円安、インフレ政策によって「デフレからの脱却」をめざしているが、規制緩和・構造改革という新自由主義路線の基本は変わっていない。したがって、非正規労働者の拡大、流動化、貧困化を図る政策を続けているのである。第2次安倍政権は、政労使会議に連合を取り込み、大企業労働者の労働条件の向上を図る一方で、表向きは非正規労働者の正社員化(限定正社員化)を推進するなどと称して非正規労働者も取り込み、さらに女性を取り込む作戦である。

しかし、騙されてはいけない。労働者派遣の恒常化、労働時間規制の弾力化、解雇規制の緩和などの政策が、口先とはまったく逆であることは明白である。そして、安倍の「賃上げが非正規労働者にも拡大した」という言葉もレアーケースでしかないことは明白である。

 多くの経済学者がデフレからの脱却のためには労働者の賃上げが不可欠といっている。消費者物価が2年4カ月ぶりに下落した。そのため、春闘の賃上げだけでは追いついていなかった実質賃金がプラスに転嫁した。ただし、現金給与総額が増えているのはフルタイム労働者であり、非正規労働者の伸びはわずかである。この間の食料品の物価上昇は大幅なものであるが、消費者物価指数には生鮮食料品は除かれているので反映していない。インフレ政策は続けられている。2017年4月には消費税率が10%に引き上げられる。このままでは、非正規労働者の生活はさらに悲惨になってしまう。

 労働者はどうたたかえばよいか。ワーキングプアの解消なくして、自らの賃上げも果たせないことを肝に銘じるべきである。「賃金の底上げなくして引き上げなし」である。非正規労働者の労働条件の引き上げの重要な取り組みとして最低賃金の引き上げがある。

 今年の地域最賃の引き上げ幅は平均18円、地域最賃の全国平均は798円になった。それでも日本の最賃は低すぎる。2010年の政労使による「雇用戦略会議」は「できる限り早期に全国最低800円を確保し、2020年までに全国平均1000円をめざす」と合意している。2020年までに1000円を達成するためには、年平均40円を超す引き上げが必要であるが、今のペースではとても達成できない。たとえ1000円を達成しても、年間1800時間労働で年収180万円であり、ワーキングプアの解消とはならない。

 先進国では最賃の引き上げがトレンドと報道されている。ドイツは今年から8.5ユーロ(約1160円)を最賃にした。アメリカは、連邦としては7.25ドルであるが、ニューヨーク州はファストフードなど外食チェーンの従業員の最賃をニューヨーク市内は2018年までに15ドル(約1850円)に、それ以外の地域は2021年までに引き上げることにした。ロサンゼルスでもサンフランシスコでも15ドルに引き上げることが決まっている。フランスは今年1月から9.61ユーロ(約1310円)、イギリスは昨年10月から21歳以上が6.50ポンド(約1250円)である。

 「先進国の最賃が上がっているから日本でも」というような簡単な話でないことは、8月1日に行われた労運研の研究会で龍井さんも忠告している。龍井さんの話にもとづけば、2020年までに1000円にという着実な審議会での取り組みの強化、②最賃をいくらにするかという生計費にもとづくリビングウェイジづくり、③公契約条例や議会・行政の取組みに最賃を位置づけさせる論理と運動、④15ドルキャンペーンのような当該労働者が主体となったたたかいと社会的ムードづくり、など様々な運動を編み上げながら最賃闘争を展開する必要がある。

それには、何よりも非正規労働者の決起が必要であり、個別の労組の取組みではなく、ナショナルセンターを超えた関係労組の共闘が必要であり、労働組合、労働NGO、労働メディア、弁護士、学者、反貧困グループなどが協力する必要がある。ワーキングプアをなくすため、まさに「総がかり」の取り組みが必要である。そして、職場における非正規労働者の差別をなくすたたかいとともに、今こそ最賃闘争に取り組むべき時である。


安倍政治をゆるさない

      「安倍政治を許さない」闘いの昂揚と労働運動の責務
      -戦後70年、日本社会の大変革にどう立ち向かうのか-

 

                                   中岡基明(労運研共同代表)

 

 連日、多くの市民や青年・学生、労働者が国会周辺を取り囲み「安倍政治を許さない」「戦争法案反対」と抗議の声を上げ続けている。
 安倍首相は曾祖父である60年安保で倒れた岸元首相の怨念を晴らすかのように戦争法を実現させ、再び日本を戦争ができる国へと大転換させるためにひた走っている。
 第二次大戦後70年が経過し、世界は新自由主義経済の行き詰まりによって混乱し、新たな貧困と格差が地球規模で拡大し、政治軍事的には世界の警察官を自認したアメリカの一元支配が揺らいぎ、中東をはじめ地域紛争が多発し、未来を不確かな時代となっている。
  こうした中、安倍首相は「戦後レジュームからの脱却」即ち日本の敗戦を認めたくないという歴史認識を基礎にした政治信条によって日本を根底から変革しようとしているのである。2014年末の衆議院選挙によって圧勝した自民党と公明党は議席の三分の二を占め、安倍首相は強権政治を一気に加速させてきた。官邸政治と言われるように首相直属の諮問機関を中心として、その決定はトップダウンによって政治、経済に亘るあらゆる領域で貫徹され、国会での議論や民意はその埒外に置いてきた。それは日本国憲法も例外ではなく『憲法違反・立憲主義の否定』との批判もかなぐり捨て、政府権力者の自由で恣意的解釈に委ねよと国民に迫っているのである。安倍政権は文字通り戦後を総決算し、日本の政治経済を根底から転換させようというのである。
 2013年末には特定秘密保護法を強行成立させ、国会安全保障会議(日本版NSC)の設置を強行した安倍政権は、2014年には、集団的自衛権の行使に係わる憲法解釈を閣議決定によって変更させ米軍と共同して集団的自衛権を行使できるとしたのである。そしていま、その法整備として国会で審議が続けられているのが戦争法案である。沖縄では普天間基地の代替として米軍へ最新鋭設備を備えて辺野古新基地を提供するために建設を強行しているのである。
 一方、グローバル時代を勝ち抜くために日本経済の復活再生をかけ、アベノミクスと称して政府が為替相場や株式市場に直接関与しすると共に、「世界で一番企業が活躍しやすい国」へと労働法制の規制緩和を進めているのである。労働者派遣法の改悪は一層の労働者の非正規化を拡大し、雇用破壊と賃金破壊を進め、労働基準法の改悪は8時間労働制を破壊して長時間労働による過労死、メンタル疾患の拡大をすすめる。戦後労働運動が獲得してきたア労働者の基本的権利を剥奪して「企業は利益第一、株主第一」という社会風土をはびこらせていくことになる。そして社会保障政策は削減され、弱者に冷たい社会を創り出すことになる。生活のために軍隊へという経済的徴兵制への道筋に繋がっていく。
  この日本社会の大転換を安倍首相は一気呵成に強行しようというのである。戦後70年の節目に平和と民主主義、労働者民衆の生活と基本的権利を巡って安倍自公政権との攻防を迎えているのである。
 
労働者民衆の反撃―新たな戦前か平和と民主主義を打ち固めることができるのか
 安倍政権の目論見を労働者民衆が阻もうとしている。いま、1960年の日米安保条約締結延長に反対した大闘争に比較される数万人を超える労働者・市民が国会包囲に駆けつけている。全国各地でも大規模な集会が開催されている。7月にはこの闘いに学生・青年の参加も多く見られるようになってきた。また、大学構内での教職員や学生が主催する戦争法案反対のための集会が開催されるなど70年以来の状況が現出し始めている。戦争法案に反対する闘いは国会内では民主、共産、社民、生活の党など野党の連携を促し、国会と取り巻く大衆的な闘いとして、戦争させない1000人委員会等が「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」を組織して労働者市民、青年の闘いを牽引してきた。そして女性団体やママの会など様々な団体が次々と立ち上がり、闘いは重層化し大きなうねりとなり始めている。青年学生ではSEALDsなど地方にも広がり様々な運動を繰り広げている。沖縄では新基地建設反対の闘いは島ぐるみに発展し、名護市長選、県知事選、衆議院選挙と全ての選挙で自民党候補を敗北に追い込んできた。そして文化人からは集会に参加できない市民にも戦争反対の意見表明を促す様々なツールが提供されて反対行動への呼びかけがなされている。反対運動をになってきた戦争を経験した世代や戦後世代の人々から確実に闘いは広がりを見せている。高い支持率を誇ってきた安倍自民党もいよいよ支持率を急降下させ始めている。安倍政権が推し進める戦争法案への反対と強引でファッショ的やり口に対する怒りが拡大しているからである。安倍自民党によって新たな戦前へと向かうのか、労働者民衆の力によって確固たる平和と民主主義の礎を築くことができるのか、日本の未来をかけた闘いとなっている。

問われる労働組合の機能と役割・・平和・民主主義は労働基本権
  60年安保闘争では闘いの先頭に労働組合の旗がひらめいていた。いま、労働組合の姿が充分見えていないと指摘されている。ところが、この戦争法案に反対し集会や国会包囲行動に参加している多くの市民には労働組合に参加している仲間や、OB・OGの方々がいる。それぞれの属する労組の旗の下でなく、闘いに参加していることになる。とすれば組合員の戦争させない、平和と民主主義を守れ」という意見は確実に広がっているにもかかわらず、その意見を労働組合として集約できていないか、具体的な闘いの指針として提示できていないことになるのではないだろうか。平和と民主主義と職場の権利を巡る職場議論が十分なされているのか再点検も必要であろう。全国港湾などでは戦争法反対のために職場集会の準備が進んでいると報告されている。こうした動きを職場段階から再建する主体的闘いもいま求められているのではないだろうか。平和と民主主義、労働基本権は同根であり、労働組合の要である。職場の議論を重視し、討論の積み重ねこそ平和と生活と権利を守り、団結を強化する礎になるはずである。労働運動の根幹である。
 2015年が安倍自民党によって、侵略と災禍の歴史がねじ曲げられ、また多くの先輩たちの闘いによって築き上げられてきた戦後日本を根底から転換する大きな節目の年にされてはならない。この時代性をしっかり踏まえ、労働運動が求められている責務に答えきることが求められている。そしてこの闘いに参加している労働者・民衆、若者・女性と労働組合の距離を近づけてしっかり身近なものとすることが求められている。この緊張感をもった運動構築に全力をあげなければならな